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・・・森の奥に、ずっと使われていない家がありました。

窓は閉じたまま、庭の草はのび放題。

夕方になると、その家の前だけ少し空気が冷たくなります。
茶々丸とおこげは、そこを通るたびに足を速めていました。
理由はひとつ。 「……ねえ、見た?」 茶々丸が小さな声で言います。

白い影。 窓のそばや庭の奥で、ふっと動く白いなにか。

「おばけだよね」 茶々丸はムキっとした顔が険しくなります。
おこげも 「うん……たぶん」 実はおこげはドキドキするこわい話が好きなので、
前から気になっていたけど、こわくて近付くことはできませんでした。

ある日、いつものように通り過ぎようとしたとき、
白い影が今まででいちばん近くに見えました。

「……あ」 庭の草むらががさっと揺れました。
おこげが近づいてじっと見ています。

「大丈夫?」 心配そうに茶々丸が声をかけます。
「見て。お尻のあたりがぴこぴこ動いてる。 

それに白いのは布だ。

 

すそから小さな白い足が見える」 「ほんとだ」

 おこげの言葉に茶々丸は安心しました。

 「こんにちは」おこげが声をかけました。
おばけのような何かがびっくりして振り返りました。
「バレちゃった?」 もぞもぞ……ぱさっ。 布がずるっと落ちます。
そこにいたのは、小さな白柴でした。

白柴はふたりを見上げて、しっぽを小さく振ります。

ちょっとだけ照れたように笑いました。

「ここ、たまたま見つけたんだ」 庭を歩きながら白柴は話します。
「だれもいないし、ひみつきちみたいだなって。
探検するの楽しいし」 落ちた布をひょいっと拾いあげます。

「ぼく、白いでしょ?」 ふたりを見て、にやり。
「ときどきね、本当にまちがえられるんだ。
“わっ、おばけ!”って」 おこげの目がきらっと光ります。

「それで?」 白柴は布をふわっとかぶりました。
「ちょっと面白いなって思って。 たまにおばけごっこしてたんだ」
布をとって、白柴はくすっと笑いました。

「動物園の園長さん知ってる?」
「この前通った時、この格好だったからびっくりして」
「隣の街にある動物園の?」「うん。その園長さんの土地なんだよ」
そのとき、やわらかくて落ち着いた声がしました。

「その話、ほんとうだよ」 ふりかえると、
そこには大きなゴールデンレトリバーが立っていました。
やさしそうな目で、みんなを見ています。
「えっ……!」 茶々丸はびっくりして、思わず背すじを伸ばしました。
おこげもぴしっと姿勢を正します。
「こんにちは……」 ふたりは、少し緊張しながらあいさつしました。
ゴールデンレトリバーはにこっと笑います。

「こんにちは。びっくりさせちゃったね」 

白柴がぱたぱたと近づきます。

「あ、この人が園長さんだよ」 「ええっ!」 

茶々丸とおこげの声がそろいました。

園長さんはゆっくりとあたりを見渡します。
古い家、のびた草、静かな庭。
「ここはね、ずっとそのままになっていた場所なんだ」 

少し考えるようにしてから続けました。
「でも―― こうして誰かが来てくれる場所なら、
なにかに使えたらいいなって思ってるんだ」 

おこげの目がきらっと光ります。

「ねえ……!」 茶々丸のほうをぐいっと見ました。

 

 「前に話してたの、覚えてる?」 「え?」 

「お菓子をつくって、みんなをハッピーにするお店」 

茶々丸は一瞬きょとんとしてから、「あ……!」 

思い出したように顔がぱっと明るくなります。
「言ってたね……!」 おこげはうれしそうにうなずきました。
「ここでできるんじゃない?」 庭と古い家を見渡します。

さっきまでこわかった場所。
でも今はなんだか、わくわくする場所に見えました。
茶々丸もゆっくりとあたりを見ます。
「……うん」 小さくうなずいて、 「なんか、ぴったりな気がする」
白柴はその様子を見てにこっと笑います。

「なんか、ワクワクしてきた」 園長さんもやさしくうなずきました。
「きっと、いい場所になるよ」 そしてここから、

ふたりの新しい挑戦がはじまります。

​第3話へ  つづく

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